今日もそらを月がゆき、優しくて寂しい夢が彼女のもとを訪れる。
湖面に映る影のようにゆらゆらと、かたちの掴めないそれは次第に現実にまで――

「――本当に仕方のない娘だ」
「……だれ、あなた?」


月の光がひとを蝕むのは、それが一度死んだ光であるからだ。
誰にも知られぬ奥深いところで、自身の泥に呑み込まれてしまいそうな者をたすけてくれるのは太陽ではない。


決して夜のお山さまに入っちゃいけない。帰ってこられなくなるよ。






零 夢の路

一 ひとよしらぬは
二 ふじのやまいと
三 みえぬてをおい
四 よいやみあるく
五 こうるいのちの
六 むかしばなしを
七 なみだかれはて 八 やみとおちゆく 九 こえをもとめて

了 夜の神



※ 8話には若干残酷的な描写があります。
大したものではありませんが、血などの描写が少しでも駄目という方はご注意下さい。

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細きわが うなじにあまる 御手のべて ささへたまへな 帰る夜の神 ―― 与謝野晶子